リスク・アンド・ベネフィット(リスクと便益)の天秤 

事務局の村上です。

3月11日の震災から、まもなく20日が過ぎようとしています。
高木基金の周辺ではとくに福島原発の状況を受けて、色々な
ことが変わっているように思います。事務局の菅波さんは
高木基金が委託研究として支援をしている「柏崎刈羽原発の
閉鎖を訴える科学者・技術者の会」
の事務局の仕事もこなす
日々です。

高木基金の理事や選考委員、それから助成先の皆さんも
様々なやり方で何とかこの危機を乗り越えるために動かれて
います。なかなか流動的な状況をお伝えするのは難しいの
ですが、できるかぎり発信していきたいと考えています。

以下、高木基金の選考委員の大沼淳一さんが3/21に書かれた
文をご紹介します。
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「リスク・アンド・ベネフィット(リスクと便益)の天秤」

科学で問題提起されたことに科学で答えが見つからない領域という
のが増えています。遺伝子組み換えや、臓器移植、核などの分野で
は、それが顕著で、不確実性の領域ということも出来ます。

これまで科学が最も得意にしてきた因果律(あるいは因果関係)の
証明もゆらいでいます。こういう領域を、ワインバーグというアメリカ
の核物理学者が「トランス領域」と名付けました。

例えば、狂牛病が人に感染するかどうかが分からなかったときに、
イギリスの科学委員会は、「感染するかもしれない」と発表した時
のパニックを心配して「感染しない」と発表しました。そして、その
すぐ後に感染者第1号が発見されました。その後、300人以上が
発症して死んでいます。

科学者が科学の中で正解が見つからない事象に対して、政治的
判断で行動したという事件でした。

イギリスの科学者たちは、この後このことを反省して、科学の進む
べき方向について市民の意見を聞く必要があることを自覚し、サイ
エンスショップ運動などが始まりました。

今回の福島原発事故においても、同じことが言えそうです。

炉心の水位が下がった時に、海水を注入する決断、圧力容器や
格納容器の圧力が上がってきたときに、放射能を含む蒸気を排出
するバルブを開く決断、使用済み核燃料プールに放水する決断、
報道を見る限り、それをやったのは、科学者でも技術者でもなく、
政治家だったようです。

まさに、科学技術の粋を集めたとされる原発が想定外の事態に
直面した時に、科学者や技術者は、起こりうることについて、
いくつかの可能性を説明することは出来ても、そのどれを選択する
かの決定が出来なかったように思われます。

不確実領域を進む時に科学があてにならないとなると、何を指標に
して進めばいいのでしょうか。

ひとつは「予防原則」です。未知の領域にあって、「その危険性が
科学的に証明されていないことを危険性を防ぐ対策を取らないこと
の理由にしてはいけない」という原則で、生物多様性条約とカルタ
ヘナ議定書や、温暖化防止条約などはこの原則が貫いています。

一方、不確実な危険について、その発生確率(=リスク)を推定、
算出して、リスクの少ない方向へ進もうという考え方「リスク管理
手法」が、アメリカや日本では多用され、化学物質の規制などに
採用されています。

この考え方では、リスクとその危険を冒すことによって得られる
便益(ベネフィット)とを天秤にかけて進むのです。

一見良さそうですが、リスクの推定計算に問題があったり、リスク
を被る人と便益を受ける人とが異なっているようなケースが多く、
そのリスクを冒す人(=被る人)に選択権がない場合には、天秤に
かけること自体が間違いだとされています。

レントゲン写真を撮ることは、X線被曝して癌になるリスクを冒す
ことになりますが、同時に、病気を発見して健康を回復する便益
もあります。

どちらを選択するかは、レントゲンを撮る人の自由な判断で行われ
るはずです。(そのために正しい知識の開示が医者に求められてい
ます)

しかし、原子力発電の場合は、原子力発電の危険性を冒してまで
そこから得られる電力の恩恵に浴したくないと思っている人にも、
等しく事故時の放射能は降ってきます。

こういう場合は、リスクアンドベネフィットの天秤にかけてはいけない
のです。

すなわち、現在TVで垂れ流されている御用学者やマスコミによる
「レントゲン写真何回分」の被曝と今回の事故による放射線被ばく
を比較するべきではないのです。

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