日経新聞にコンプライアンスを語る資格はあるか。サハリン開発混乱の張本人は誰か。  

 今年2月、建築確認検査後に身障者用の客室を一般客室に改造していた
という不正が発覚したビジネスホテルチェーン東横インの西田憲正社長は
「制限速度60キロの道を67~68キロで走っても、まあいいかと思った」
とのべ、マスコミにもつるし上げられ、世間の大ひんしゅくを買った。
 目先の利潤に目がくらんだ企業人の見識とは、この程度のものでしかな
いという見本のような事件だったが、本日9月25日付の社説で、日経新聞も
不見識をさらけ出している。

 「ロシアはサハリン開発を混乱させるな」と題した社説は、

「パイプラインの工事の一部で環境保全に問題があったことは、事業者側
 も認めており、一部で自主的に工事を中止し、手直しも始めている、と
 いう。厳しい自然環境の中での800キロメートルにも及ぶ工事だけに、
 どんなに気を配っても問題が生じることはあろう。重要なのは自然破壊
 があれば真摯(しんし)に修復していくことである。」

「そうした点で、サハリン2の事業者側がロシアに対し不誠実な対応をとっ
 ているようには見えない。問題箇所の工事中止は当然としても全体を中
 止させる理由は見あたらない。パイプラインはすでに八割近く完成して
 おり、この段階になって全体を問題視するのも理解できない。」

と主張しているのである。
 日経新聞としては、国際的なエネルギー開発事業の上では、環境破壊な
ど、取るに足らない問題であり、適当に修復しておけばそれでよい、とい
う考えのようだ。サハリンの生態系の重要性を全く理解せず、ダメージの
程度について、何ら評価を加えず(おそらく確認もせず)、この様な主張
を展開するとは何事か。しかも、問題は、事業者であるサハリンエナジー
社の工事に関わる環境法違反であり、それに基づく事業認可の取り消しで
ある。企業のコンプライアンス(法令遵守)違反に対し、行政当局が厳し
い対処をするのは当然ではないか。日経新聞は、常日頃、企業の社会貢献
やCSRを推奨しているにもかかわらず、なぜ、この様な大規模かつ深刻
なコンプライアンス違反に対して、これほど甘い態度なのか。巨大なエネ
ルギー開発事業だからか。だとすれば、事業による環境破壊への無理解で
あり不見識である。結局、日経の社説も東横インの社長と同じレベルとい
うことなる。

 サハリン2における、環境アセスメントや環境保全対策が極めてずさん
だということは、猛禽類や海棲ほ乳類などの研究者や、WWFなどの自然
保護団体が、従来から指摘してきたことである。高木基金としても、現地
で継続的にモニタリングを実施し、まさに事業が環境法に違反しているこ
とをアピールしてきたNGO「サハリン環境ウォッチ」を助成してきた。
国内でも、現地の調査を行っている研究者やFoEジャパンが中心となり、
この様な大規模環境破壊に、JBIC等の開発金融機関が融資を通じて荷
担しないように提言を行ってきた。
 地球的な環境保全の立場に経てば、サハリン開発は、いつ事業が全面的
に中止されても驚くに値しないほど、大きな環境破壊リスクをはらんだ事
業である。一部で重大な環境法違反があれば、他にも違反があるに違いな
いと考えるのが自然である。むしろ、日経新聞が、すでに開発がほとんど
進んでいるかのような印象を醸し出していることに、悪質なものを感じる。
サハリン開発は、現在のサハリン2で終わるわけではなく、サハリン6ま
で、6次にわたる開発が計画されている。大局的に見れば、現段階で事業
を中断し、環境への影響を再検討することは極めて妥当なことではないか。
その様な考え方ができないとすれば、目先の開発利益に目がくらんでいる
との誹りを免れることはできない。
 日経新聞に限らず、今回、ロシア政府がサハリン2の事業認可を取り消
したことについての報道は、外国資本中心に進められているエネルギー開
発事業に、国営企業を参入させたいというロシア政府が、環境問題を「口
実」にしているだけだ、と言う論調が目立つ。(環境保護サイドに、素直
に喜べないという声があるのも事実。)しかし、この様なずさんな開発が
ここまで進められてきたことを問題視し、責任を追及する主張がほとんど
見受けられないのは、マスコミ全般の意識の問題としてゆゆしき状況であ
る。
 開発事業が公益を目的としたものであることは理解するが、それだけで
環境破壊が大目に見てもらえるような時代はもう終わったのである。サハ
リン開発を混乱させている張本人は、これまでもNGOなどからの再三に
わたる指摘を無視し、開発事業を進めてきたサハリンエナジー社であるこ
とを、曖昧にしてはならない。そして、開発主体にロシア政府が算入する
にせよ、しないにせよ、この機会に、これまで問題提起をしてきた研究者
やNGOなどにも開かれた場で、事業の環境影響を抜本的に見直すこと無
しに、サハリン2の工事を再開すべきではない、ということを強く主張す
るものである。    (高木仁三郎市民科学基金 事務局 菅波 完)

なお、パイプライン工事現場の状況に関するサハリン環境ウォッチの
レポートが次のアドレスからダウンロードでできます。
http://www.bankwatch.org/documents/photo_report_21_06_19_07_2006_2.pdf

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